2024年6月20日
5月28日、中村区にある名古屋市立豊国中学校に呼んでいただきました。2年生100人に向けた講演。「職業」についての話をしてほしい、という要望です。中学2年生。すでに明確な目標がある、という生徒はまだ少ないでしょう。
まず、私はアナウンサーという仕事を説明します。「正しい日本語、アクセントで時間通りに原稿を読んだりしゃべったりして伝える人です」と。
ただ、過去に質問されて戸惑ったことがありました。2つの中学校で、講演の際、「アナウンサーってなんですか?」と聞かれたことがあります。「アナウンサーたるもの、こういう心持ちでやっている」。そんなスピリットのようなことを問われたのかと一瞬緊張しましたが…。
彼らはアナウンサーそのものを「見たことがなかった」のでした。生まれた時からネット社会。テレビが茶の間の主役だった時代を経験していない子どもがアナウンサーを知らないというのは確かに頷けます。「YouTubeしか見ないからわからない」と言われました…。
それ以前にも後輩が講演先で「私たちはいろんな新聞に目を通し情報を得ている」と言ったら「新聞って何ですか?」と質問があったというのです。新聞を購読しない家が増えている昨今、家に配達されなければ知らなくても無理はありません。今のリアルです。
さて、私はよく冒頭で写真や映像を使います。スポーツの放送席やスタジオでマイクに向かっている様子、スポーツ選手や芸能人と一緒に撮った写真は生徒の食いつきがいいのです。災害報道の現場リポートも真剣に見てくれます。この日もそうでした。
アナウンサーという仕事はその場で実演もできるのでわかりやすい仕事ではあるでしょう。そんな中、私は「ご両親の仕事は知っていますか?」と問いかけます。職種や会社名は知っていても、その仕事にどんなやりがいや苦労があるかは、自宅で親が農業や商売をしている姿でもみないとわからないのでは。実際、私の父親は銀行員でしたが、仕事内容や会社がどうやって成り立っているのか自分は知りませんでした。
そこで、生徒には「ご両親や身近な大人で職業を持っているひとに仕事内容を聞いてみよう」と勧めるのです。これが職業教育の第一歩ではないかと思うのです。講演後、全員の感想文が届きました。「親に仕事を聞く」ことを「やってみた」と書いていた子どもが何人かいてうれしくなりました。「親は聞かれて驚いていた」とも書いてありました。親御さんも我が子の成長を実感したのでしょう。
中学時代は多感で、将来についての理想をおぼろげながら考えるようになります。私が中学3年のとき、夏の高校野球で地元愛知代表の東邦高校が「バンビ」と言われた1年生投手・坂本佳一の活躍で準優勝しました。決勝をテレビで見て大いに興奮した私は、社会見学の観光バスの車中、余興大会でその時のアナウンサーの実況のものまねを披露しました。担任の先生から「佐藤君、将来アナウンサーになったら?」と言われてその気になり今に至ります。軽い気持ちで言ったのでしょうが、中京テレビに入社してからその先生を訪ねた時、たいそう喜んでくださったことが思い出されました。
まさに中学時代真っ只中の子どもたちが真剣に私の話を聞いてくれた講演会。彼らは将来どんな仕事に就くのでしょう。医療や介護の現場でこちらが日々お世話になるかもしれませんね。
そして、中学、高校、大学など教育機関から呼ばれたとき、いつも思うことがあります。もう一回、あの時代に戻ってやり残したことにチャレンジしたい。この日もその思いを胸にしまい、豊国中学校を後にしました。