2025年4月24日
4月12日、女子ソフトボールJDリーグ開幕戦を実況した。岐阜県の大垣北公園野球場で行われた大垣ミナモ対ビックカメラ高崎ビークイーンの一戦。
解説は宇津木妙子さん。10日後、春の園遊会に宇津木さんが招かれた様子をテレビで見た。
試合はビックカメラ高崎が初回から3イニング連続本塁打と主導権を握り9-0で圧勝。開幕投手を務めた勝股美咲投手は8年目で自身初のノーヒットノーラン。7回裏は3者三振で締め、多治見西高校出身の勝股が地元・岐阜で行われた開幕戦で快挙達成というドラマが生まれた。
同じチームからはあの投手の大記録も秒読みとなっている。
ソフトボール界の顔・上野由岐子投手(42)が今年のJDリーグの開幕から2週目で節目の大記録まであと1勝に迫る勝ち星を挙げた。次勝てば日本リーグ時代からのリーグ戦通算勝利が前人未到の250勝となる。
取材した4月20日、豊田市運動公園野球場でのトヨタレッドテリアーズとの交流戦にリリーフで登板。JDリーグが始まって4年目のシーズン。3年前、初代チャンピオンになったビックカメラ高崎とおととし去年連覇のトヨタ。近年のソフトボール界を牽引してきた東地区と西地区の強豪同士が、年1試合のみの交流戦で激突。試合はビックカメラ高崎・濱村ゆかり、トヨタ・メーガン・ファライモの投げ合いで両チーム無得点のまま、6回裏から上野がリリーフ登板。
「スターウォーズ」のテーマ曲に乗って登場した背番号7はMAX110km/hの速球と変化球でトヨタ打線に的を絞らせなかった。
圧巻はフィールディング。ピッチャーライナーを2つ処理したが、高いバウンドのピッチャーゴロを腕を伸ばして捕り、向き直って二塁に送球し一塁走者を封殺したプレーは素晴らしかった。無駄のない動きと進塁を防ぐ好判断。絶妙で動きがしなやかなのだ。
試合は延長8回表、ビックカメラ高崎が工藤環奈の適時内野安打で決勝点を奪い、上野がトヨタの反撃を封じ1-0で勝利し今季初白星で日本リーグ時代から通算249勝目とした。
「13年越しの五輪連覇」の立役者だった上野は、夏に43歳になる今季もチームの大きな戦力だ。去年のイタリアワールドカップ優勝にも貢献。スピードこそ若き日の120km/hといった数字は出ないが、毎年変化球にマイナーチェンジを加えて投球の幅を広げている。データ全盛の時代になっても「上野由岐子が5・6人いるように見せる」投球術で君臨している。まさに超人だ。
私が初めて実業団のソフトボール実況を担当したのが2016年の日本リーグ。名古屋のパロマ瑞穂野球場で行われたリーグ戦のトヨタ対ビックカメラ高崎戦だった。その試合、日本リーグ史上初の2000奪三振まであと1つとしていた上野。2試合前のリリーフ登板で1999奪三振としていたので、私は担当の前の試合で登板して達成してしまうものと思っていた。ところがその試合で先発した濱村が6回までノーヒットノーランを続けたことで上野のリリーフ登板がなくなり瑞穂の試合に先送りとなったのだ。
試合開始から上野が打者を追い込むたびに「上野、前人未到の2000奪三振!」と描写する準備をしていたがなかなか三振が取れない。
ようやく4回の裏、その時は来た。追い込んだトヨタ・古澤春奈選手から低目の球で空振りを取って達成。初めてソフトボールを実況する機会に、こんな大記録に巡り合えた幸運を素直に喜んだ。上野はこの試合で完封勝ち。私は試合終了後のヒロインインタビューも務め、上野の喜びの声を聞いた。
その試合ではもう一つ、大きな出来事があった。トヨタの先発は山根佐由里投手。前の登板まで実にリーグ戦42連勝。これは今でも日本記録で、実に5年間負けがなかったのだ。この試合、打ち込まれて偉大な記録がストップしてしまった。
今、放送席で私と最もコンビを組んでもらっている解説者が山根さんなのだ。これも何かのめぐり合わせだろう。
上野は高卒で実業団入りして今季25年目。250勝となれば単純計算で年平均10勝だ。日本リーグ時代はリーグ戦が年22試合。JDリーグになってからは年29試合。その少ない試合催行で達成されるこの大記録である。しかも上野は2022年シーズン、1試合も登板していない。奪三振数は2417に積みあがっている。両部門の2位、ミッシェル・スミス(豊田自動織機)に勝ち星で77、奪三振数で455という大差をつけての歴代1位なのだ。
ロサンゼルス五輪でも上野由岐子はピッチャーズサークルに立つのだろうか。